平安時代から千年にわたりしきしまの里を見守ってきた国指定天然記念物「貞観杉」。この度、しきしまのシンボルとも言える貞観杉から製品が誕生しました。貞観千年箸・箸置きセットと、ペアキーホルダー型の貞観千年守り「絆」と「縁」です。
貞観千年箸・箸置きセットの内容は、長さ24センチの箸と長さ5センチの箸置きです。毎日の食事、行事食の際にお使いいただくと、千年の樹齢にあやかって健康長寿につながるかもしれません。
ペアキーホルダー型の貞観千年守り「絆」と「縁」は、長辺8センチ、短辺3.9センチ、高さ1.7センチの木材を真ん中で波型にカットし、ペアのキーホルダーに仕立てたものです。「離れていても、気持ちはいつも一緒でいたい」大切な方に贈って、改めて絆や縁を確かめ合うのはいかがでしょうか。
貞観杉は、しきしまの家から徒歩5分ほどの場所にある杉本神明神社の入り口にそびえ立つ、愛知県下最大のスギの大木。国の天然記念物に指定されています。令和5年度の神社総務・川合和広さんから見せていただいた『神明神社沿革誌』の年表には「八五九 神木貞観杉このころ生える」の記載があり、平安初期からずっと地域を見守ってきたことがわかります。
貞観杉の目の前に店舗とご自宅を構え、新聞記事や歴史資料など貞観杉に関する記録を集めている安藤昭作さんからは、大正時代の写真、昭和初期と平成に同じアングルで撮影した写真を見せていただくことができました。
貞観杉が、なぜ製品化されることになったのか。製品化プロジェクトは、しきしまの家に持ち込まれた2件の相談から始まりました。
1つ目の相談は、神社総務の川合さんからでした。「令和5年2月に、樹木医の診断により貞観杉の樹幹の傾きを矯正するため、直径50cmほどの枝3本が伐採されました。剪定枝とはいえ粗末にはできない。良い活用方法はないでしょうか」とのことでした。
その翌日、豊田市立旭中学校の先生から相談がありました。「今年は、3年生が木の活用をテーマに総合学習に取組みます。地域で活動できることはないでしょうか」とのことでした。
この2つの相談を受けたしきしまのスタッフに、『中学生にアイデアを出してもらい、剪定枝を使った製品を作って販売してみてはどうか』という構想が浮かびました。千年生き続けている貞観杉は、しきしまの人たちがこの地に暮らし続け、地域を過去から現在へとつないできたことの象徴です。貞観杉の製品をお届けすることで、私たちの「しきしまを未来へとつないでいく」という決意を伝えたい。そう考えました。
まず、私たちの想いに賛同し、製品づくりに協力してくれるパートナーを探すことから始めました。いなかとまちの交流や連携のコーディネートを行う豊田市おいでん・さんそんセンターに相談し、八幡製材、ウッディーラー豊田、就労継続支援B型事業所よりみち、(株)M-easyを紹介していただきました。中学3年生のみなさんにアイデアを出してもらい、箸とペア守りの製作がスタートしました。
製品は、パートナーのみなさんの手によって、ひとつひとつ丁寧に仕上げられています。
丸太のような貞観杉の枝から製品を作るために、まず必要なのが木を板の形状に加工することです。旭地区旭八幡町にある八幡製材が協力してくれました。
作業を担当した鈴木禎一さんに、貞観杉の特徴を聞いてみると、
「年輪がこれまで見てきた木と比べて、非常に細かい」とのこと。製材所に保管してあった貞観杉の枝を見せてもらうと、ほとんどの年輪が1ミリ以下で、肉眼ではいくつあるのか数えるのが困難なほどでした。
板になった貞観杉の枝は、箸の製作と、ペア守りの材料づくりを担当するウッディーラー豊田代表の樋口真明さんの元に届けられます。
箸づくりは、まず箸の長さが取れるように、木目が24センチ以上まっすぐな部分を選ぶことから始まります。
「市場に出回っている木であれば使える部位が多いですが、今回の貞観杉の枝は“あるものを活かす”ことが前提のため、材料取りが難しくなります」と樋口さん。
風や雪など自然環境の影響で枝がしなり、内部に裂け目ができることがあるそうです。その裂け目は、木が乾燥してから出てくることもあり、長年木を扱ってきた経験がなければ使える部位の選定は困難だそう。
使う部分が決まったら、プレーナーという機械で表面をなめらかに削り、24センチ長さの板に整え、丸鋸で箸の太さの棒に切り分けていきます。
次の工程からは手作業です。箸の4面のうち2面ずつを異なる治具にはめ込み、かんなで1面あたり15〜20回削っていきます。それを2種類の目のサンドペーパーで研ぎ、最後に亜麻仁油を塗って
乾燥させ、完成です。
製作途中に反りが出てしまうなどの理由で除かれる材もあり、箸になるのは、板のたった5%だということです。
ウッディーラー豊田で角材に加工された、ペア守り用の木材は、(株)Mーeasy の
木工部門KIDÉE(キデー)の山田尚晃さんに渡されます。山田さんは届いた材料を慎重に確認し、まずは製品として使えない部分を除き、その後、キーホルダー用のサイズに切り分けていきます。
「年輪が細かいので、物理的に重いということもありますが、やはり存在自体が重厚に感じられます」
貞観杉を扱って作業することの特別感を、山田さんはそう表現していました。
山田さんがカットした材料は、足助地区の北小田町にある就労継続支援B型事業所よりみちに渡されます。よりみちは、材料を2つにカットし、ペア守りの形にする工程を担っています。
まず利用者さんが材に治具をはめて鉛筆で線を描き、それを副代表の鈴木悠太さんが糸鋸で切っていきます。
最後に、利用者さんが荒目と細目2種類の紙やすりで丁寧に仕上げていました。お話を聞いてみると「やすりがけの作業が大好き」「作業は難しくない」と教えてくれました。
鈴木さんは「旭中学校の生徒さんがアイデアを出したものの製作に携わることができて、
とてもありがたく思っています。地域を身近に感じられる作業に、利用者さんたちもやる気で取り組んでいます」と、笑顔で話していました。
キーホルダーの最後の工程を担うのは(株)MーeasyのYさん(春野工房)です。まず、手芸用の細いドリルで部品を取り付けるための小さな穴を開け、その穴に木工用の強力接着ボンドを注入していきます。ボンドの表面が少し乾いたくらいを見極めて、穴にネジを回し入れます。
次に真鍮製の焼印を取り付けたハンダゴテを温め、色が茶色っぽく変わるまで待って、一つずつ押していきます。冷めた後、ピンセットを使ってネジに丸カンを取り付け、そこにキーホルダーの接続パーツを付けて完成しました。Hさんは、「効率よく作業ができるよう、使う道具を色々と試しました」と説明してくれました。
昨年10月13日、豊田市コンサートホールで行われた『第5回地域共生社会推進全国サミットinとよた』で、しきしまの家が事例発表をさせていただきました。当日、旭中学校3年生のみなさんも参加し、1年間取り組んできた木を活用するプロジェクトのプレゼンテーションと、貞観千年箸、ペアキーホルダー型の貞観千年守りの販売を行いました。
しきしまの家の取り組み、貞観千年杉の製品化プロジェクトについて発表を聞いて下さった多くの方が
ブースに詰めかけていました。初めての試みのため売れ行きを心配していましたが、約2時間のあいだに
箸50膳、お守り2種はそれぞれ30個が売れ、予想以上の反響をいただくことができました。
製品には、御神木のパワーと製品化に関わったすべての人の想いが込められています。手にしてくださった方たちに末永い幸せが訪れることをお祈りして、お届けしたいと思います。ご購入方法については、下記をご参照ください。
- 川合和広さん/杉本神明神社総務(取材協力)
- 安藤昭作さん/まるせん店主(取材協力)
- 豊田市立旭中学校3年生(製品アイデア・販売協力)
- 鈴木禎一さん/八幡製材(製材)
- 樋口真明さん/ウッディーラー豊田代表(箸製作・ペア守り材料づくり)
- おいでん・さんそんセンター(全体コーディネート)
- 山田尚晃さん/(株)M-easy木工部門KIDÉE(ペア守り材料カット)
- 就労継続支援B型事業所よりみち(ペア守りカット・研磨)
- 春野工房Yさん/(株)M-easy(ペア守り仕上げ)
- 岡山尚子さん(貞観杉ロゴ制作)
- 木浦幸加さん/ユカキカク(取材・ライター・写真撮影・デザイン)
- しきしまの家で販売しています。
- 遠方の方は、郵送でも購入できますので、しきしまの家にお問合わせください。