どうして農村の景観を守る必要があるの? たかが景色でしょ?

いいえ。されど景色なんです。

「ふるさと」の4文字からあなたは何を連想しますか? 懐かしく優しい気持ちにしてくれる「ふるさと」。田舎に暮らしたことのない人であっても、上のような美しい田園風景を連想する人は多いでしょう。

こういった美しい景観の保全は、「しきしま・ときめきプラン2020」のなかでも「農地保全プロジェクト」という重点プロジェクトとして位置づけられています。また、私たちの行動指針「しきしま暮らしの作法」は、第一条〜四条にかけて、農村景観を守るための行いを「優先すべき作法」として定めています。

しきしま暮らしの作法

なぜ、これほどまでに「農村景観の保全」に私たちがこだわっているのか? その理由について、本稿でお伝えします。

荒廃した農村の景観が「あきらめ」を生む

私たちが農村景観の保全にこだわるのは、個人の財産であっても、それらが織りなす農村景観は、未来に引き継ぐべき地域の共有財産であると考えたからです。

農村政策に詳しい、明治大学の小田切徳美(おだぎり とくみ)教授は、農村の限界化が引き起こされる背景について、季刊誌「北陸の視座」のコラムの中で下記のように説いておられます。

人、土地、ムラという空洞化の連鎖を引き起こしたものは何か。

(中略)私は、根底にあるのは「誇りの空洞化」だと考えている。一言で言えば、住民自身が農山村に住み続ける誇りがなくなってしまった、あるいは農山村に住み続ける意義を見い出せなくなってきた、ということだ。

農山村では、子どもに関して「こんなところで苦労をさせたくない」「東京、大阪にだして高い教育を受けさせたい」といった発言が当たり前のように聞かれる。

親たちのそんな発言を聞いて育った子どもたちは、自分のムラを「こんなところ」と思ってしまう。また農業や林業を「苦労」と考えてしまう。自分たちの住む地域や生業(なりわい)を否定する言葉が一人歩きし、子どもたちに受け継がれ、「誇りの空洞化」を広げていく。

では、小田切教授のおっしゃる「誇りの空洞化」はどこから生まれるのでしょうか? 私たちは、そのきっかけの1つが「荒廃した農村風景を目にすること」ではないかと考えました。

手入れがされなくなり、荒れてしまった田んぼ

終わりのない獣害。採算の取れない農業。後継者の不在。……これらの結果として現れる、手入れが行われなくなり、荒れ果ててしまった農村の風景は、確実に私たちをネガティブな気持ちにします。

美しい農村景観の保全は、移住者をしきしまに呼び込むためだけでなく、元からしきしまで暮らす人々が「誇り」を失わないためにも重要なのです。「農地保全プロジェクト」が「しきしま・ときめきプラン2020」の重点プロジェクトの一つとして位置付けられたのは、そのためです。

2019年に行った「私と家族の将来像」アンケートでは、55%の農家が「10年以内に農地が管理できなくなるかもしれない」と回答しています。

何も手を打たなければ、しきしまは10年後、耕作放棄地だらけの地域になる。それは火を見るより明らかです。

限界化が進む集落の農地が保全できるか?

ときめきプラン2020」では、押井営農組合をモデルにした集落営農(集落単位の共同農業経営)への移行を計画しましたが、2年間にわたるプロジェクトチームでの検討の結果、後継者や集落ごとのモチベーションなどから大きな方針転換を余儀なくされました。

今、私たちは、しきしまを一つの集落と捉えた新たな農地保全方針に向かって動き出しました。これまで集落単位で考えてきた対策を、広域で検討することで、解決の選択肢が増え、支援制度活用の幅も大きく広がります。

その手法の一つとして、これまで集落ごとに取り組んできた「中山間地域等直接支払制度」(農水省の農地保全共同活動への補助金)の2023年度からの自治区での一本化「広域協定」締結を目指して準備を進めています。

「広域協定」の締結により、これまで中山間地域等直接支払制度の活用を離脱したり、諦めたりしていた集落にも恩恵がもたらされるほか、今後、人口減少や高齢化で共同活動が困難になる集落を守ることができると考えています。

農村RMOで楽しい未来を

農村RMO(農村型地域運営組織)とは、人口減少が顕著な「中山間地域」の農地保全と農業を主軸に住民、法人、自治会などが一体となって「地域経営」に取り組む組織のことです。

農村RMO ウェブサイト

2022年度から制度化された農村RMO推進事業は、自治区などの地域組織と農業関連団体が協議会を構成し、生活支援と農地保全を一体的に進めることを推進する事業で、まるでしきしまのために用意された支援制度のようです。

私たちは、この事業の2023年度採択に向けて準備を進めています。この事業が採択された場合、3ヶ年度にわたり、山村の課題解決に向けて行う様々な実験的取り組みに補助金がいただけます。

  • 農地保全
    → 耕作放棄地を復旧して空き家とセットでIターン者を呼び込む。
    → 「草刈ルンバ」を民間企業と共同開発し、草刈り体験ツアーを企画する。
  • 資源活用
    → 複数の野菜出荷ルートを統合、野菜や加工品の配送事業をシステム化する。
  • 生活支援
    → 「支え合いシステム」の試行を重ね、ITによる事務の簡素化を図る。
    → 高齢者のお出かけ、子どもの塾への送迎システムをつくる。
    → 日常品や食料の買い物が、家庭のテレビでできるシステムをつくる。

これらの実験的取り組みは、夢物語などではなく、関係企業や団体と調整を進めており、3年以内に実現をめざす事業です。

「しきしまの家」を拠点に始まる農村の暮らしは、いまよりずっと楽しくなると思いませんか。

私たちは、クラウドファンディングに挑戦しています。ご支援、拡散をお願いします。

困りごとの相談窓口&老若男女誰でも集える居場所 「しきしまの家」をつくりたい

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